選び方と住まい
28歳で家を固定するとは、いちばん長い「まだ決めていない」を手放すこと
世帯年収3,200万、貯蓄と投資で3,000万、家賃は月35万。28歳と27歳です。借入の枠は同年代より一段広く、条件はとうに揃っています。揃っているのに、最後のひと押しがきません。こない理由は、たいてい物件の側にありません。
この人が決めかねているのは「買えるか」ではありません。買えることは、いまの収入がすでに証明しています。手が止まる一点はもっと奥にあります——28歳でいちばん多く持っているものは、買った瞬間に最初に差し出すことになります。しかも、その差し出すものには、まだ名前がついていません。
28歳の含み益は年収ではない。まだ一本も進路が確定していないこと
3,200万という世帯年収は、この年齢では確かに厚いものです。けれど28歳の本当の含み益は、口座残高でも年収の額でもありません。住む街も、働き方も、家族の人数も、誰と組むかも、まだ一つも決まっていない——その未確定そのものが資産です。28歳は、まだ何も賭けていないから、ほぼ何にでも賭けられます。
この資産は貸借対照表のどこにも載りません。だから持っているうちは価値がほぼゼロに見えます。直近で転職も移住もしていなければ、「まだ何も決めていない」は使われていない資産のように見えるでしょう。けれど選択肢の値打ちは、使った日ではなく、使えるという事実そのものにあります。28歳のこの厚みは、歳を取るごとに薄くなる一方で、いくら払っても二度と買い戻せません。
35年ローンに署名するのは家ではない。63歳まで折れずに走り続ける自分
28歳で35年ローンを組むと、完済は63歳になります。証書には「家を買う」と書いてありますが、実際に署名しているのはもっと長い一行です——これから35年、この場所へ毎月この額を送り続けられる自分であり続ける、という約束のほう。返済を支えているのは物件ではなく、倒れずに稼ぎ続ける35年ぶんの自分です。
35歳で同じローンを組むより、28歳で組むほうが期間は7年長くなります。問題はその7年の利息ではありません。28歳から63歳までの区間には、人生でいちばん進路の折れ目が密集しています。最初の転職、独立、移住、関係の変化——その折れ目の大半がまだ起きる前に、家だけが先に63歳までの軌道を一本引いてしまいます。早く買うことの本質は、返済を早く始めることではありません。いちばん折れ目の多い区間を、丸ごと固定済みにすることです。
固定費は、ぜんぶが固定されるわけではない。修繕積立金は買った日がいちばん安い
ローンの月返済は固定でも、住居費の全部が固定されるわけではありません。タワマンの修繕積立金は新築時に低く設定され、十数年ごとの長期修繕計画に沿って段階的に引き上げられていくのが通例です。買った日の月額が、保有期間を通じていちばん安い——この向きは、契約時の支払い表には映りません。家の費用は、若いほど安く始まり、年を追って重くなるよう設計されています。
管理費、固定資産税、いずれ来る大規模修繕の一時金。これらは「いまの月35万」と並べた瞬間には見えないところで、確実に増えていきます。28歳で買うとは、この上り坂を誰より長く、いちばん体力のあるうちから登り始めることです。家賃なら更新のたびに降りる選択肢が残りますが、これらは持っている限り降りられません。
『年収が続く前提』の試算は、いちばん長く縛られる人の問いにたどり着けない
事前審査も家計診断も、入力されたいまの年収をそのまま将来へまっすぐ延長します。3,200万が続けば35年ローンは無理なく回る——その答えは正しいものです。正しいのですが、この人が確かめたいのはそこではありません。35年の途中で収入や働き方が折れたとき、誰より長く縛られた自分の余白が、どこまで持ちこたえるか。確かめたいのはそちらです。
延長線は、線が折れる地点を描けません。28歳で組むとは、その折れる地点が誰より多く、誰より長く自分の前に残っているということです。いまの年収を一本の前提に固定する試算が計算しないのは、まさにその前提が揺れたとき余白がどう動くか——長期ローンでいちばん知りたい一問のほうです。いちばん長く賭ける人ほど、いちばん答えてほしい問いだけが、最初から計算式の外に置かれています。
押し上げる
- ↑厚い稼ぐ力(3,200万)
- ↑3,000万の蓄え
- ↑28歳の若さと複利の時間
押し下げる
- ↓月35万の高い家賃
- ↓膨らみやすい暮らしの幅
- ↓固定費を背負いすぎる余地
その80は、若さという厚みを手元に置いたままの80
この世帯の前提のまま100歳までを1,000回試算すると、余白スコアは80、資産が尽きずに済む未来はおよそ8割(79%)、安心ラインに届くのは42歳ごろでした。なぜここまで届くのでしょうか。3,200万という厚い稼ぐ力、3,000万の蓄え、そして何より28歳という年齢——この先に複利が働く時間が、誰より長く残っています。余白スコアの過半を占める「100歳まで資産が尽きないか」を、この三つが力強く押し上げています。
では何が反対側から引いているのでしょうか。月35万という家賃の高さ。収入に見合って膨らみやすい暮らしの幅。そして借入の枠が広いぶん、固定費を背負いすぎる余地も同じだけ広いことです。押し上げる若さと、膨らみがちな固定費——この綱引きの結着が80であり、79%であり、42歳です。この数字は厚いものです。ただし、いちばん効いている若さの厚みを、まだ差し出さずに手元へ置いたままの厚さでもあります。
だからこの人の論点は一行で言えます——その若さを、いま家に差し出して固定するのか、それとも数年だけ手元に残しておくのか。
あなたのスコアも、同じ綱引きの結着として出てきます。その結着のなかで、いちばん重い一手は、いま固定してしまっていいものでしょうか。
資産が尽きずに済む割合
79%
安心ライン到達
42歳
YOHACK は、「28歳でいま固定する未来」と「まだ何も決めずに持っておく未来」を、自分の数字で並べて余白の差を見るための道具です。何も売りません。自分の数字で見てみる
同じ問いを抱えていそうな人が、まわりにいたら。