選び方と住まい
借りられる額と、借りていい額
世帯年収2,400万、貯蓄と投資で2,800万、家賃は月31万。事前審査に出したら、想像より大きな額まで「貸せます」と返ってきました。その瞬間、検討していた物件が急に手の届く範囲に見え、もう一段上まで視界に入ってきます。借りられるなら、借りたほうがいい気がしてくる。けれど、本当にこの額を借りていいのか——そこで手が止まります。
迷っているのは「借りられるか」ではありません。審査が通った時点で、それは決着しています。決めかねているのは、たまたま隣に並んでいるだけの、まったく別の場所から弾き出された二つの数字のことです。銀行が回収しそこねない上限と、自分が背負っても倒れない上限。同じ年収から出てくるのに、守っている相手が違う。その違いに、まだ名前がついていません。
審査額は「あなたが払える額」ではなく、「あなたが払えなくなっても銀行が困らない額」
事前審査のMAXは、プロが年収と資産を見て弾いた「安全に背負える限界」として受け取られます。けれど審査が計算しているのは、あなたが安心して暮らせる額ではありません。万一あなたが返せなくなっても、担保処分と保証で銀行が損を出さずに済む額です。
視点が、はじめから逆を向いています。審査は「最悪の場合でも回収できるのはいくらまでか」を測ります。あなたが知りたいのは「無理なく払い続けられるのはいくらまでか」です。前者は貸し手の損失を防ぐ線、後者はあなたの生活を守る線。同じ年収を入力しても、出口で守っている相手が違うから、二つの数字は一致しません。
審査が採点するのは、あなたの平均的な未来ではなく、いちばん都合のいい一本だけ
審査額は、いまの年収がこのまま続く前提で組まれています。返済比率という物差しは、現在の収入の何割を返済に回せるかで天井を引きます。けれどその式に、その収入が10年後20年後も同じだけ入ってくるかは、ほとんど織り込まれていません。2,400万を稼ぐ働き方を60歳まで同じ密度で続けられるか——その問いは、審査の枠の外にあります。
だからMAXは、起こりうる無数の未来のうち、収入が落ちず・健康が崩れず・働き方を変えたくならない、もっとも明るい一本の上でだけ成立する数字になります。審査が見ているのは、あなたの平均的な未来ではありません。その一本さえ通れば回収できる、という貸し手側の最低ラインの未来です。
MAXを知らされた瞬間、「暮らしから上限を引く」買い方が「天井から下りる」買い方に変わる
本来の順番は、自分の暮らしから逆算していくらまでと先に決め、その範囲で物件を探す、というものです。ところがMAXを一度見せられると、その数字が基準点に固定されます。検討していた物件が「審査額より下」に見え、もう少し上でも届くと感じる。可能性の天井だったはずのMAXが、いつのまにか出発点に変わっています。
起きているのは、上限を知ったことで判断の重心が静かにずれる現象です。下から積み上げる買い方が、上から下りてくる買い方に反転する。そして反転した瞬間、自分の暮らしから安全な上限を引く作業のほうが、なぜか後回しになります。
35年ローンの担保は、頭金でも物件でもなく、40年後も同じ密度で稼いでいる自分
MAXまで借りる判断は、いまの支払い能力を担保に入れる行為に見えます。けれど35年ローンが本当に取り立てているのは、これから先も今と同じ稼ぐ力を保ち続ける未来の自分です。2,400万という年収は、その水準で働き続けることとセットになっています。額が大きいほど、その前提への依存は厚くなります。
だから借入を一段上げるとは、月の返済が増えることではありません。降りられなくなる線が、一段手前に引き直されることです。ペースを落としたい、働き方を変えたいと思ったとき、その選択肢がまだ残っているか。借りていい額を問うことは、結局、どれだけ前提を縛らずにおけるかを問うことに等しいのです。
「審査額より少し下なら安全」——返済比率も家計診断も、審査と同じ土台では同じ答えしか返せない
年収の何倍、返済比率は手取りの何割、という目安はどれも審査の論理をなぞっています。だからそれに沿って「審査額より余裕を見た額」を出すと、安全な上限が審査額のすぐ内側にあるかのように見えてしまう。少し引けば安心、という錯覚です。けれどその引き算は、収入が続くという審査とまったく同じ前提の上で行われています。
この人が確かめたいのは、MAXから何割引くかではありません。MAXまで借りた未来と、一段抑えた未来とで、収入が揺らいだり働き方を変えたくなったりしたとき、人生の余白がどれだけ違ってくるか——その差です。審査と前提を共有する道具は、その前提が崩れたときの差を、構造上はじめから映しません。だから出せる答えが「審査額より少し下」しかないのです。
押し上げる
- ↑厚い世帯収入2,400万
- ↑収入比で軽い家賃31万
- ↑2,800万の蓄えと複利の時間
押し下げる
- ↓収入源が実質一系統
- ↓稼ぐ密度低下・働き方変更のぶれ
- ↓「降りない」前提への依存
問いは「MAXからいくら引くか」ではなく「借入額ごとに、余白を何ポイント手放すか」
どの額で借りるかは本人にしか決められません。決める前にできるのは、複数の借入額がそれぞれ連れてくる未来を、同じ物差しで横に並べておくことです。MAXで借りた未来、一段抑えた未来、さらに保守的に組んだ未来。それぞれで、資産が尽きずに済む確率はどう動き、安心ラインに届く年齢はずれ、収入が落ちたときの粘りはどれだけ変わるのか。
この世帯の前提のまま、いまの検討額で100年を1,000回試算すると、余白スコアは88、資産が尽きずに済む未来はおよそ93%、安心ラインに届くのは52歳でした。この高さは、ほとんど稼ぐ力で立っています。世帯2,400万という厚い収入が毎月の差を押し上げ、家賃31万も収入の割には重すぎず、2,800万の蓄えがその差に複利の時間を足している。その三つが、スコアを上から支えています。
けれど同じ前提が、押し下げる側も握っています。88という数字も、52歳という到達も、2,400万を同じ密度で稼ぎ続ける一本の未来の上に乗っています。収入源は実質一系統で、その密度が落ちる、働き方を変えたくなる、というぶれを、いまの試算は明るい一本に丸めている。広い余白に見えて、その広さは「降りない」という前提への依存で買われています。
だからこの人の論点は、MAXから何割引くかでも、スコアが高いか低いかでもありません。借入額を一段ずつ上げるたびに、その高い余白を何ポイントずつ前提への賭けに変えていくのか——その変換レートを、署名の前に見ておけるか、です。
あなたのスコアも、同じ綱引きの上にあります。借入を一段上げるたびに、その高い余白の一部が前提への賭けに変わる——その変換レートは、署名の前に数字にできます。
資産が尽きずに済む割合
93%
安心ライン到達
52歳
YOHACK は、「MAXまで借りた未来」と「一段抑えて借りた未来」を、自分の数字で並べて眺めるための道具です。何も売りません。自分の数字で見てみる
同じ問いを抱えていそうな人が、まわりにいたら。