選び方と住まい
「みんな買ってる」は、自分の数字を一度も見ないための合言葉
世帯年収2,400万、貯蓄と投資で4,000万、家賃は月32万。条件だけ並べれば、この人はもう「いつ買うか」の段階に見えます。同年代の友人や同僚が次々と都心に買い、住んでみせ、鍵の写真を上げていく。だから本人にとって、買うこと自体はとっくに前提です。迷っているのは、せいぜい物件と時期——と、本人は思っています。
けれど引き金は、いつまでたっても引けません。引けないのは、決め手の一物件に出会えていないからではありません。この人がまだ一度も、自分の数字でこの決断を検算していないからです。「みんな買っている」「都心なら値下がりしない」——この二つの言葉が、その検算を、ずっと先送りにしてくれています。
前例のある選択ほど、人は自分の手で計算をやめる
前例のない選択をするとき、人は必ず慎重になります。手本がないぶん、自分で計算するしかないからです。逆に、まわりの全員がやっている選択は、その計算そのものを省略させます。「みんな買えているのだから、自分も大丈夫だろう」——この推論は速くて、たいてい当たります。だから多くの人が、それで済ませてしまいます。
この人が止まっているのは、慎重だからではありません。むしろ逆です。王道に乗った瞬間に検算する理由が消えて、確かめないまま前提だけが膨らんでいきます。珍しい道を選んだ人より、誰もが通る道を選んだ人のほうが、自分の数字を一度も見ずに数千万円の契約に近づいていく。
鍵の写真は、買えたことしか映さない。買ったあとの30年は写らない
「みんな」と一括りにされた中身は、年収も、貯蓄も、働き方も、収入の安定度も、ひとりずつ違います。同じ都心の同じ価格帯を買っていても、その人にとって楽な買い物か、毎月ぎりぎりの買い物かは、外からは絶対に見えません。SNSに上がるのは、買えたという一点だけです。
写るのは契約の瞬間であって、その後に続く30年の家計ではありません。隣で同じ物件を買った人の毎月がどれだけ薄いかは、誰のタイムラインにも流れてきません。王道とは、自分の検算をまわりに外注できてしまう道のことです。そして外注された検算は、当然、誰の手元にも残りません。買ったあと家計を支えるのは「みんな」ではなく、この人ひとりなのに。
年収2,400万は、検算を省く根拠ではなく、いちばん検算すべき数字
世帯2,400万、貯蓄4,000万。この数字は強いものです。強いからこそ、危うい。高い収入は「これだけ稼いでいるのだから細かく計算しなくても平気だ」という感覚を生みます。金額の大きさが、そのまま検算をしない口実になります。
けれど2,400万の多くは、二人ぶんの収入が同時に入り続けることで成り立っています。片方がペースを落とせば、ボーナスが薄くなれば、転職で一度収入が途切れれば、この前提は崩れます。しかも年収が高い世帯ほど、それに合わせて生活水準も固定費も上がっていて、収入ほど簡単には下げられません。検算を飛ばしていい理由だと思っていた数字は、ほんとうは、いちばん前提を確かめておくべき数字でした。
「都心なら値下がりしない」は、住み続けるこの人には一度も使えない
この決断を支えるもう一つの合言葉が「都心の資産価値は落ちない」です。仮にそれが正しいとしても、論点が一つずれています。値下がりしない資産価値が効いてくるのは、売るときだけです。けれどこの人は、買って、住むつもりでいます。
住み続けるかぎり、含み益は数字の上にしか存在しません。日々出ていくのは評価額ではなく、毎月の返済と維持費です。家計が苦しくなった月に、「値下がりしていない」は一円も助けてくれません。売って引っ越せば暮らしは続きますが、それは「都心に住み続ける」という最初の願いを手放すということでもあります。資産価値の話は、いつのまにか、住む幸福の話を出口の話にすり替えています。
問われているのは月の返済額ではない。30年ぶん前借りした「いまの自分」
この人がほんとうに賭けているのは、月いくらの返済が妥当か、ではありません。いまの働き方と、いまの世帯収入を、これから30年そのまま続けられるか、です。住宅ローンとは、いまの年収を担保にした借金というより、いまの年収が30年続くと自分で署名する契約に近いものです。
「買って当然」に見えるのは、その署名を疑わずに済んでいるあいだだけです。一度でも収入が二割下がる年があったら。一度でもどちらかが長く働けない時期が来たら。月々の返済は一円も減りません。王道に乗ったつもりで、この人は、いちばん検算が必要なただ一つの前提を、まるごと未検算のまま固定しようとしています。
ローン比較も家計診断も、検算を省く側に設計されている
不安を晴らそうとローンシミュレーターや家計診断を開いても、迷いは一ミリも動きません。それらはみな、入力したいまの世帯収入を、そのまま将来へまっすぐ延長するからです。2,400万を入れれば、2,400万が続く未来だけが返ってきます。「みんな買っているから大丈夫」が、機械の声に置き換わっただけです。
けれどこの人がほんとうに確かめたいのは、その前提が崩れた年に何が起きるか、ただそれだけです。それらの道具は、片方の収入が消えた年も、ボーナスが薄くなった年も、最初から計算式に入れていません。収入は続くものとして与えられ、続かない可能性は変数ですらない。不安が消えないのは、計算が雑だからではありません。いちばん知りたい問いを、計算の側が最初から避けているからです。検算を外注し続けた人が、最後に頼った道具まで、検算を省くようにできていました。
押し上げる
- ↑二人ぶんの厚い稼ぐ力
- ↑若いうちの4,000万の蓄え
押し下げる
- ↓月32万の家賃
- ↓収入なりに膨らんだ暮らし
- ↓片方の収入が欠けるリスク
スコア78という数字が、ほんとうは何の上に立っているか
買うべきかどうかは、本人が決めることです。決める前にできるのは、「みんな」を一度どけて、この決断を初めて自分の数字で検算してみることだけです。いまの前提のまま100歳までを1,000回試算すると、この世帯の余白スコアは78、資産が尽きずに済む未来はおよそ7割(74%)、安心ラインに届くのは50歳ごろでした。この78が静かに良い数字なのは、稼ぐ力が二人ぶんで厚いことと、4,000万という蓄えを若いうちから持っていることが、月32万の家賃と「収入なりに膨らんだ暮らし」を上回って押し上げているからです。けれどその二人ぶんの稼ぐ力こそ、78を押し上げている当の力でいて、同時にいちばん揺れやすい力でもあります。片方が欠けた瞬間、押し上げていた力がそのまま押し下げる力に変わります。78は、その収入がこの先30年まっすぐ続くという、まだ一度も確かめていない仮定の上に立っています。
だからこの人の論点は、月いくらの返済額ではなく、二人ぶんの収入が一本でも欠けた年に、この78がどこまで持ちこたえるか、その一点に絞られます。
あなたの数字も、同じ綱引きの上にあります。
資産が尽きずに済む割合
74%
安心ライン到達
50歳
YOHACK は、「みんな」を一度どけて、「都心を買って住み続ける未来」と「賃貸を続ける未来」を自分の数字で並べ、余白の差を見るための道具です。何も売りません。自分の数字で見てみる
同じ問いを抱えていそうな人が、まわりにいたら。