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健康と住まい

倒れたら、この家はどうなる

世帯年収2,200万、貯蓄と投資で3,800万、家賃は月27万。条件だけ並べれば、もう「いつ買うか」の段階に見えます。けれど本人だけが知っている前提が一つあります——この2,200万は、心身をすり減らすことと引き換えに成り立っているのです。深夜まで張り詰めた日が続き、休んでも芯まで抜けきりません。その密度の上に、年収も暮らしも乗っています。だから家のことを考え始めると、月々の返済額より先に、別の問いが立ちます。もし自分が倒れたら、このローンはどうなるのか。

この問いは、縁起の悪い想像ではありません。自分の働き方をいちばん近くで見ている人だけが持つ、構造への直感です。問題は、その直感に答える試算が一つもないことにあります。世の中の計算はすべて「いまの年収が続く」を入口に置いています。つまり、倒れない自分しか採点していません。いちばん知りたい場面が、計算の外にこぼれ落ちています。

怖いのは、死ぬ確率ではなく、働けなくなる確率が上がっていくこと

恐れているのは、自分が死ぬことではありません。うつ、病気、消耗——これまでの密度で働けなくなることです。死は確率の低い一点で、来るか来ないかは読めません。一方「燃え尽きて稼げなくなる」は、この働き方を続けるほど確率が上がっていきます。一度だけの抽選ではなく、毎年少しずつ目盛りが上がっていく数字です。立っている限り、その数字は下がりません。

しかもこの確率は、本人がいちばん見えにくい場所にあります。年収が高い局面は、たいてい走り続けることで保たれています。立ち止まれば収入が落ちると知っているから、不調の兆しを見て見ぬふりして走ります。だから倒れるときは、徐々にではなく、ある日まとめて来ます。本人の体感としては突然でも、確率としては、ずっと前から積み上がっていたのです。

団信が消すのは「いなくなった自分」。残債を残すのは「居るのに稼げない自分」

住宅ローンには団体信用生命保険がつきます。借りた人が亡くなれば残債はゼロになります。けれどここに、決断の急所があります。団信が消すのは「死」だけで、「働けなくなった」は消しません。死ねば残債は消えるのに、倒れて居続ける限り、返済は一円も減らずに毎月やってきます。生きて、家にいて、ただ稼げない——その状態は、保険のどの欄にも当てはまりません。

つまり住宅ローンとは、貯蓄を担保にした借金である以上に、倒れずに稼ぎ続ける自分を担保に入れる契約です。暗黙に賭けているのは、死なないことではなく、走り続けられること。そして倒れるほうが、死ぬよりずっと起こりやすいのです。保険が消すのは「いなくなった自分」、毎月の返済が向き合うのは「居るのに稼げない自分」。備えと、いちばん起こることが、最初からずれています。

就業不能保障は団信の代わりにならない。免責期間と「働けない」の定義が、効くべき局面を素通りする

この穴を埋めるものとして就業不能保険があります。けれど団信のように残債を即座に消してはくれません。多くは支払いまでに数十日から数か月の免責期間が置かれ、保障されるのも「就業不能」という厳しい状態に当てはまった場合に限られます。回復しかけて短時間だけ働ける、出社はできるが以前の密度では働けない——そうした半分だけ稼げる時期は、定義からこぼれやすいのです。

住宅ローンの返済は、その免責期間も、定義からこぼれた半分稼げる時期も、待ってはくれません。保障が始まる前の数か月と、保障の網にかからないグレーな時期。そこをまるごと自前で渡らねばなりません。保険があるから大丈夫——その安心が指しているのは、いちばん起こりやすい局面のすぐ隣であることが多いのです。

脆さは貧しさから来ない。収入が高い前提に、暮らしを最適化しきったことから来る

高い収入には、たいてい高い固定費がついてきます。家賃も生活水準も、いつのまにかそれに合わせて上がっています。そこへ大きな住宅ローンが乗ると、一つの非対称が生まれます。固定費は収入に連動しないのに、収入のほうは健康に連動します。元気なうちは、この非対称は表に出ません。むしろ高い収入が、高い固定費を毎月きれいに飲み込んでくれます。

非対称が表に出るのは、収入が半分になった月です。手取りは半分でも、返済も家賃も生活費も、一円も下がりません。下げようとしても、上げてきた暮らしは収入ほど速くは縮みません。年収が高い世帯ほど、絶対額としての落差は大きくなります。だから脆さは、貧しさから来るのではありません。収入が高い前提に、暮らしを最適化しきってしまったことから来るのです。

効くのは倒れた一点ではない。回復は遅く、固定費は速いという時間差

心身が倒れたあと、すぐに元の密度へ戻れるわけではありません。休職、療養、そして恐る恐るの復帰。回復は月や年の単位で進み、しかも一直線ではなく、戻りかけては落ちます。けれど固定費の時計は、その回復速度を一切待ちません。返済は最初の月から満額で、回復が半分のところでも満額のまま請求してきます。

この、回復は遅く固定費は速いという時間差こそが、家計を静かに細らせる本体です。倒れた月の打撃よりも、稼げない期間が想定より長引くことのほうが効きます。一度きりの大きな出費なら、蓄えで点として吸えます。けれど毎月の満額の固定費が、収入の戻らない月数ぶん積み重なると、蓄えは点ではなく面で減っていきます。問われているのは、倒れるかどうかの一点ではなく、稼げない期間がどれだけ続くか、という長さのほうです。

3,800万は「額」では効かない。効くのは「収入ゼロの月を、何か月買えるか」

貯蓄と投資で3,800万。額として見れば厚い数字です。けれどこの決断で効いてくるのは、額そのものではありません。収入が止まったとき、家計をまるごと何か月ぶん肩代わりできるか、という月数のほうです。住宅ローンを組めば、毎月出ていく固定費は確実に重くなります。同じ3,800万でも、割る数が増えるぶん、買える月数は短くなります。

賃貸のまま身軽でいる家計と、ローンを背負った家計とでは、この月数がまるで違います。前者は更新のたびに住居費を下げる余地が残りますが、後者の返済からは降りられません。3,800万を「いくらあるか」で眺めている限り、この差は見えません。「収入ゼロの月を、いまの暮らしのまま何か月続けられるか」に翻訳して初めて、額が時間に変わり、倒れたあとの輪郭が見えてきます。

片方が倒れた瞬間、二馬力の前提は引き継げない。支えるのと、肩代わりしきるのは別の事実

二人世帯だから片方が倒れてももう片方が支える、と思えます。それは確かな備えで、落ち方を緩めてくれます。けれど役割を取り違えてはいけません。残ったもう片方の収入は、二人ぶんの生活費と返済を一人で背負えるほどには、たいてい太くないのです。支えるのと、肩代わりしきるのは、別の事実です。

しかも倒れた側を一人で看ながら、もう片方も同じ密度で走り続けられるとは限りません。看病、家事、不安——支える側にも見えない負荷が乗り、その人が倒れる確率も上がります。二人そろったときの余裕と、片方が欠けたときの余裕は、同じ家計の数字に見えて、まったく別の方程式でできています。二馬力の前提で組んだローンは、一馬力では引き継げません。

既存の試算には「健康」という入力欄がない。だから一番重い一問に、構造上たどり着けない

ローン試算も家計診断も、入力した年収がこのまま続く前提で先を描きます。倒れる、休む、半分しか働けない——そんな欄はどこにもありません。だからどれだけ精緻に弾いても、この人がいちばん知りたい「倒れたら?」には、構造上たどり着けません。不安が消えないのは、計算が雑だからではありません。計算が、その問いを最初から避けているからです。

健康を入力欄に持たない道具は、健康が崩れた未来を描けません。その道具が計算していないのは、収入が半分になった月数でも、回復が長引いたぶんの固定費でもなく、年収が止まるという可能性そのものです。いまの年収を一本の前提に固定した試算は、まさにその前提が外れたとき家計がどうなるかという、この決断でいちばん重い一問に答えられません。いちばん脆い局面を抱えている人ほど、手元の道具からいちばん遠い答えしか返ってこないのです。

スコアの綱引き

押し上げる

  • 世帯2,200万の稼ぐ力
  • 3,800万の蓄え
  • 二人分の収入源

押し下げる

  • 月27万の住居費に最適化
  • 走り続ける前提依存
  • 生存率44%まで低下

確率は誰にも当てられない。動かせるのは「倒れた世界線」の余白の長さ

倒れるかどうかは誰にも当てられません。だからこそ確かめておけるのは、確率ではなく長さのほうです。もし数年休んだら、もし収入が半分になったら、家計は何年もちこたえるのか。買う場合と賃貸の場合で、その耐久年数はどれだけ違うのか。倒れる前に、その差だけは並べて見ておけます。

この世帯の前提のまま100歳までを1,000回試算すると、余白スコアは62、資産が尽きずに済む未来は半分に届かない44%、安心ラインに届く年齢は出てきませんでした(—)。余白スコアは、いちばん重い生存の確からしさを軸に、暮らし・リスク・手元の動かしやすさを束ねた数字です。押し上げているものははっきりあります——世帯2,200万の稼ぐ力、3,800万の蓄え、二人分の収入源。けれど反対側で、月27万の住居費に最適化された暮らしと、その全部が「いまの密度で走り続けられる」という一本の前提に乗っていることが、生存の側を半分以下まで引き下げています。62も44%も、検証されていないその一行の上に立っています。だから到達年齢が出てこないのは、計算が悲観しているからではありません。健康なまま走り切る前提でさえ、安心の線を越えきれていないという事実が、そのまま空欄になっているのです。

つまりこの人の論点は、物件価格でも金利でもありません。倒れずに稼ぎ続けるという、自分でも当てられない一行を、どこまで担保に差し出せるか——その一点に尽きます。

署名の前に名指しておくべき一行は、あなたの家計のどこにあるでしょう。

この世帯の余白(同じ前提で100年を1,000回試算)
余白スコア62 / 100
0余白が薄い100

資産が尽きずに済む割合

44%

安心ライン到達

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