家族と住まい
「2人なら余裕」は、2人であり続けることに賭けている
世帯年収2,200万、貯蓄と投資で3,000万、家賃は月28万。いまの2人の家計なら、たいていの物件は「余裕で買える」に着地します。物件サイトの条件表も、ローンシミュレーターのバーも、どれだけ動かしても緑のままです。だから条件を眺めるほど、迷いは一ミリも動きません。動かないのは、迷いがその表の外にあるからです。
この人が決めかねているのは「買えるか」ではありません。「いま2人で出した余裕という答えを、これから先も2人である前提のまま、35年ぶん固定していいのか」です。問題はローンの金利でも返済額でもなく、まだ決まっていない家族構成のほうが、ローンの顔をして先に現れています。本人は物件を選んでいるつもりで、ほんとうは、まだ会っていない数年後の家族の暮らし方を一つだけ選ばされているのです。
その余裕は、貯蓄3,000万の厚みではなく「2人」という一本の脚で立っている
年収2,200万で家賃28万が余裕に見えるのは、収入が2人ぶん入り、支出が2人ぶんで止まっているからです。この均衡を支えているのは資産の厚みではなく、いまの世帯構成という一点です。貯蓄が厚ければ、前提が変わったあとも資金が回る時間を稼げます。けれど脚が一本なら、稼げるのは時間だけで、前提が変わったこと自体は変わりません。厚みは衝撃を遅らせますが、消しはしません。
しかも当の本人が、心のどこかで「子どもができたら」と言い始めています。つまり余裕の前提そのものを、本人がすでに疑っているということです。疑いながら35年を固定しようとしているのが、迷いの正体でしょう。「2人なら余裕」は嘘ではありません。ただしそれは、2人であり続ける一本の未来の中でだけ成り立つ、条件付きの真実です。
家族は住んでから形が決まる。ローンだけが、形のない家族に先に器を渡す
子どもが生まれるかもしれない、片方が一度ペースを落とすかもしれない、住む街の意味が変わるかもしれない。その全部がまだ未定のまま、家だけが先に確定します。住宅ローンとは、家族の輪郭が決まる前に、その輪郭を一つ選んで固定してしまう契約です。賃貸なら更新のたびに輪郭を引き直せますが、購入はその引き直しの自由を手放すところから始まります。
本来は、人数や働き方が決まってから、それに合う器を選びます。ところがローンは順番が逆で、まだ形のない家族に先に器を渡します。形が後から決まったとき、器のほうはもう動きません。物件選びを「いまの好み」で進めているつもりでも、実際に選んでいるのは、数年後に来るかもしれない家族の暮らしの天井のほうなのです。
広すぎる器と狭すぎる器は、後から巻き戻せる度合いが違う
「2人用の手頃な家」と「3人でも回る広めの家」を並べると、対等な二択に見えます。けれど固定費の効き方は対称ではありません。広めを選んで結局2人のままだったとき、余る一部屋と数万円の差額は、痛いけれど暮らしは回ります。狭めを選んで一人増えたとき、足りない一部屋は買い足せず、引っ越しか、窮屈なまま暮らすかの二択になります。後者の選び直しだけは、お金では即座に巻き戻せません。
この非対称が、判断をどちらにも振り切れなくさせます。安全側に倒して広めを選べば、来ないかもしれない3人目のために、確実に来る今日の固定費を上げることになります。逆に振れば、来るかもしれない3人目を、今日の身軽さと引き換えにすることになります。どちらの間違い方が重いかは、家族の人数が決まるまで誰にも分かりません。決まる前に器だけ選べと迫られているのが、この決断の歪さです。
教育費が怖いのは「いくらか」が、いちばん効く時期になっても確定しないから
子どもにかかるお金は、生まれれば必ず発生します。だから「起きるかどうか」は怖くありません。怖いのは総額の幅です。公立中心の進路と、私立・受験・留学まで含む進路とでは、一人あたりで桁が一つ動きます。同じ「子ども一人」でも、家計に開く穴のサイズが固定されていません。しかもその幅は、親が事前に決めきれるものでもありません。本人の適性も、その時の家計の余力も、何年も先にしか分からないからです。
その穴がいちばん大きく開く時期は、収入が頭打ちに近づく頃と、ローン返済の途中とに重なります。金額が決まっていれば備えようがあります。けれど「いくらになるか分からないものが、いちばん効くタイミングで来る」のは、すべてを今日確定させる固定費とそもそも噛み合いません。ローン比較サイトに、この幅を入れる欄は存在しません。比較できるのは、幅のない数字だけだからです。
返済がいちばん重い数年と、収入がいちばん細る数年は、同じ窓に入る
住宅ローンの返済は、契約直後がいちばん重くなります。残債が最大で、繰上げの余力もまだ薄い最初の数年です。一方、子どもが生まれれば、産休・時短で世帯収入はいったん細り、そのへこみが1年で戻るとは限りません。2,200万のうち相当部分が二人ぶんの収入で成り立っているなら、片方が時短になるだけで、余裕の前提は数字の上で目に見えて薄くなります。
この二つは、別々に起きれば順番にしのげます。問題は重なりです。返済が最重量の数年と、収入が細る数年と、保育の出費が立ち上がる数年が、30代後半の同じ窓に位相を揃えて入り込みます。単年で見ればどの費目も払えます。けれど家計が試されるのは平均の年ではなく、いちばん細い数年に資金が回るかどうかです。年間収支のスナップショットは、この谷の深さそのものを描きません。
子ども一人で組んだ家計は、二人目という最後の変数に最初から答えていない
子ども一人を織り込んだ試算をしても、まだ一段、開いたままの変数が残ります。第2子です。一人なら回る器も家計も、二人になれば教育費は二本に増え、進学の山は数年ずれて長く尾を引きます。その尾の終わりは、ちょうど退職前の、収入で挽回しにくい年代にかかります。一人を前提に固めた器とローンは、その二本目の山を最初から計算に入れていません。
ここで効くのも確率ではなく、決めきれなさのほうです。第2子を持つかどうかは、いま署名する瞬間には決まっていないことが多いものです。だから「2人のまま」「子ども一人」「子ども二人」という三つの未来が、同じ一つのローンの上に同時に乗っています。本人が選んでいるのは器とローンであって、家族の人数ではありません。なのに、人数のほうが、その器に後から収まれるかどうかを決めてしまうのです。
いまの2人を延長した試算は、2人でなくなる不安にだけは原理的にこたえられない
家計診断もローン試算も、入力されたいまの世帯——つまり2人の収入と支出——を、そのまま将来へまっすぐ延長します。ところがこの人が確かめたいのは、まさにその世帯構成が変わったとき、余裕がどう目減りするかです。延長線は、線が折れる地点を描けません。いまの2人を固定した試算は、2人でなくなる不安にだけは、設計上どうやってもこたえられないのです。
それでも、できることはあります。いまの前提を一本そのまま延ばすのではなく、世帯構成が変わった別の前提に差し替えて、もう一度引き直してみることです。線が折れる地点を試算の側で先に折ってやれば、折れたあとの傾きが見えてきます。確かめたいのは折れない未来の頂点ではなく、折れたあとに残る高さのほうではないでしょうか。
押し上げる
- ↑2,200万の厚い稼ぐ力
- ↑月28万の低い住居費
- ↑3,000万の蓄えと複利の時間
押し下げる
- ↓二人ぶん収入の一本脚依存
- ↓未計上の教育費の幅
- ↓第2子・時短の数年が未反映
その79は、二人ぶんの収入という一本の脚に乗っている
いまの前提のまま100歳までを1,000回試算すると、この世帯の余白スコアは79、資産が尽きずに済む未来はおよそ77%、安心ラインに届くのは50歳ごろでした。この数字を押し上げているものははっきりしています。2,200万という厚い稼ぐ力、月28万に抑えた住居費、3,000万の蓄え、そして30代という複利の時間の長さです。良い数字は偶然ではなく、この四つが噛み合った結果として出ています。
けれど同じ計算の裏側で、押し下げる力も働いています。2,200万の多くが二人ぶんの収入という一本の脚に乗っていること。その脚に、教育費の幅も、第2子の有無も、ペースを落とす数年も、まだ一つも乗っていないこと。79は「2人のまま、いまの収入と支出が続けば」という最も身軽な前提の上で出た高さで、脚が一本に細った世界線では、同じ79のままではいられません。
だからこの人の論点は、買えるかでも、79が高いか低いかでもありません。79という高さが、二人という一本の脚の上に乗っていることを、まだ一度も自分の数字で見ていないこと——そこにあります。
資産が尽きずに済む割合
77%
安心ライン到達
50歳
YOHACK は、「2人のままの未来」と「子どもが一人増えた未来」を自分の数字で並べ、余白の差を見るための道具です。何も売りません。自分の数字で見てみる
同じ問いを抱えていそうな人が、まわりにいたら。