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自由と住まい

月40万を払えるのに、なぜ買えないのか

世帯年収2,400万、貯蓄と投資で2,500万。家賃は月40万。これを毎月、当たり前のように振り込めている人が、いざ購入となると手が止まります。周りは「それだけ払えるなら買ったほうがいい」と言い、本人も理屈ではそう思っています。月40万を出し続けられる家計が、その半額のローンの前で固まる。そう思うのに、引き金だけが引けません。

引けないのは「買えるかどうか」で迷っているからではありません。月40万を払えている時点で、それはとうに証明されています。決めかねているのは別のことです——買うことで何を手元から外すのか、その手放すものに、まだ名前がついていません。名前のないものは、天秤に載せられません。だから何週間考えても、片側だけが重いまま止まっています。

払えるのに止まるのは、迷いではなく、計算が正しく終わった証拠

この一点で止まる人の多くは、仕事でも生活でも素早く決めてきた人です。その人が、ここでだけ動かなくなります。決断力の問題ではありません。支払い能力で測れば、この決断は「買える」で即座に終了します。それなのに本人の中ではまだ何も終わっていない——能力と直感のあいだに開いたこの食い違いそのものが、答えのありかを指しています。

「払えるか」という問いは、もう解けています。解けているのに迷うなら、いま解いている問いと、本当に解きたい問いが別物だということです。本当の問いは「払えるか」ではなく、買うことで何を手元から外すことになるのか、です。指で触れない何かを差し出すと感じているから、支払い能力という物差しでは、いつまでも片づきません。

高い家賃は捨て金ではない。「いつでも降りられる」の月額利用料

家賃は捨て金、25年で1.2億払っても不動産が残らない、と言われます。確かに家賃のあとに物件は残りません。だがこの言い方は、家賃が同時に買っているものを一つ数え落としています——ほぼ手続きゼロで、住む街も働き方も賭け方も変えられる、その「降りられる状態」です。物件が残らない代わりに、身軽さが毎月更新されています。

転職、海外、起業、親の介護、関係の変化。進路が変わったとき、賃貸の人は2か月分で身一つで動けます。持ち家の人は売却・住み替え・残債という重い手続きを通さないと動けません。月40万のうちいくらかは家賃で、いくらかは——表には決して分けて書かれませんが——「いつでも降りられる」を毎月買い直している利用料です。捨てているのではなく、流動性という名のサービスに課金しているわけです。

高い家賃を払える人ほど、降りられることの値段は高くつく

皮肉なことに、可動性の価値は払える家賃に正比例して上がります。月40万を稼ぎ出せるキャリアは、たいてい次の一手——昇進、転職、独立、海外——でさらに伸びる余地を抱えています。その先の選択肢が大きい人ほど、いつでも動ける状態が守っている将来の上振れも大きくなります。降りられる権利は、行使したときに開く扉の大きさに比例して値が張ります。

逆に言えば、年収が頭打ちで動く先のない人にとって、降りられる権利はそれほど高くありません。動く可能性が薄ければ、固定しても失う扉が少ないからです。高家賃を払えるこの人の迷いが深いのは、まさに動ける余地が人より大きく、だから手放すものも人より重いからにほかなりません。能力が高いことが、この一点では決断を軽くするどころか、人より重くしているのです。

賃貸は降りる権利を毎月更新し、購入はその権利を手放す

賃貸は住む場所を借りているだけではありません。降りる権利を月単位で更新し続けています。割高なのも、いつでもやめられるのも、同じ理由から来ています——毎月その権利を買い戻しているからです。月額が高いことと身軽でいられることは、切り離せない一つの事実の表と裏です。

購入は、その権利を解約して固定資産に置き換える行為に近いものです。固定が悪いのではありません。根を張ることそのものに、賃貸では決して得られない価値があります。ただ、毎月更新してきた「降りられる状態」を、買った瞬間に手放すことにはなります。これは賃貸との費用比較の話ではありません。費用表のどこにも載らない権利を、片方の世界線が丸ごと失う、という非対称の話です。比べているのは値段ではなく、成り立ちの違う二つの状態なのです。

買い替えという出口は、見積もりの段階で人を動けなくする

持ち家でも売って住み替えれば動ける、と人は言います。理屈の上ではそのとおりです。だが実際の住み替えには、仲介手数料、登記、税、新居の取得費、その間の二重コストがのしかかります。価格次第では売却額が残債に届かないことすらあります。動こうとすれば、まずこの試算と向き合わなければなりません。出口があることと、出口が軽いことは別です。

この摩擦は、お金以上に意思決定そのものを鈍らせます。賃貸なら「来月出る」で済む決断が、持ち家では「売れるか、いくらで、いつ」を確かめてからになります。動こうとするたびに見積もりが先に立ちはだかるなら、人はやがて動くこと自体を考えなくなります。降りられる状態を失うとは、出口の手続きが重くなるだけではありません。出口を想像する習慣ごと、静かに薄れていくことです。

一度も使っていない権利は、失うまで値段がつかない

この権利の厄介さは、行使していないうちは価値がゼロに見えることです。直近5年、転職も移住もしていないなら、「降りられる状態」は一度も働いていません。だから家賃のうちその分が、まるごと無駄に見えてきます。使っていない保険を、毎月払い続けているような感覚になります。

だが選択肢の価値は、使った日ではなく、使えるという事実そのものにあります。実際に動かなくても、「いつでも動ける」という事実が、いまのキャリアの賭け方や働き方の前のめりを、下から静かに支えています。攻めた一手を打てるのは、退路があるからです。買ってこの事実が消えたとき、初めてその重さに気づきます——使わずに済んでいたのは、それが手元にあったからでした。払えるのに買わない選択は、無駄遣いではなく、権利を持ち続けることへの支払いなのです。

含み益は、その家に住み続ける限り、一円も使えない

買えば資産が残る、という安心の正体は、見た目より危ういものです。値上がりした自宅の含み益は、紙の上では資産でも、そこに住み続ける限り取り出せません。使うには売るしかなく、売れば住む場所を失います。つまり住むことと利益を確定することが、同じ一軒の中で両立しません。「資産が残る」のは事実ですが、その資産は住んでいる本人には触れられないのです。

賃貸で同じ額を金融資産に置けば、必要なときに必要な分だけ崩せます。持ち家の含み益は、売って引っ越すか、住み続けて触れないか、の二択しかありません。「資産が残る」と「自由に使える資産が増える」は、似た言葉でまるで別物です。固定資産は、住んでいる限り動かせません。流動性という観点で見ると、片方の未来は帳簿の上では厚くても、いざというとき手元の現金は薄くなりえます。

ローン比較も家計診断も、失う権利を「ゼロ円」で計上する

賃貸と購入の支払総額を並べる計算は、長期ではたいてい購入を有利に出します。だがその式には、賃貸が同時に買っている「降りられる状態」が、最初から金額として入っていません。残る不動産だけが資産の側に立ち、手放す権利はゼロ円で計上されます。片方の便益だけを数える天秤が、いつも同じ方向に傾くのは当然です。だから「買ったほうがいい」が、いつも先に出てきます。

この人が確かめたいのは差額ではありません。買って固定する未来と、払い続けて降りられる未来とで、人生の余白がどう変わるか、です。賃貸が毎月買い直している権利を一円も足さない計算は、その権利が支えている上振れも、降りられないことの目減りも勘定に入れません。だから前者だけを精緻に積み上げて、いちばん知りたい比較に永遠にたどり着けません。迷いが消えないのは計算が足りないからではなく、計算が片方の未来しか視野に入れていないからです。

スコアの綱引き

押し上げる

  • 世帯2,400万の稼ぐ力
  • 複利を効かせる年齢の若さ

押し下げる

  • 月40万の重い固定費
  • 年収比で薄い手元資産2,500万

見るべきは差額ではなく、固定する未来と降りられる未来の「余白の差」

どちらが正しいかは本人にしか決められません。決める前にできるのは、二つの未来を同じ物差しで並べておくことだけです。月40万を払い続けて降りられる未来と、買って住む場所を固定する未来。それぞれで資産が尽きずに済む確率はどう動き、安心ラインに届く年齢はどれだけずれるのか。答えではなく、輪郭を先に見る。

この世帯の前提のまま100歳までを1,000回試算すると、家賃を払い続ける未来の余白スコアは75、資産が尽きずに済むのはおよそ7割(69%)の未来で、安心ラインに届くのは50歳でした。なぜ75で止まり、なぜ75まで届くのか。引き上げているのは、世帯2,400万という厚い稼ぐ力と、複利を効かせられる年齢の若さです。引き下げているのは、月40万=年480万という重い固定費と、それに対して2,500万という、年収のわりには薄い手元資産です。家賃が高いのに崩れすぎないのは稼ぐ力が支えているからで、それでも余白が満ちきらないのは、高い固定費がその力を毎月差し引いているからです。70%に届かない生存率も、50歳という到達年齢も、この押し合いの着地点として出てきます。

つまりこの人の論点は、買うか買わないかではなく、稼ぐ力で高い家賃を支え続ける綱引きを、いつまで・どの速度で続けるつもりなのか——そこにあります。降りられる状態を毎月買い直すこの余白は、走り続ける前提の上にだけ立っています。

あなたのスコアも、同じ綱引きで決まります。その綱が買う未来と買わない未来でどちらにどれだけ傾くかは、並べてみるまで、たいてい自分でも見えていません。

この世帯の余白(同じ前提で100年を1,000回試算)
余白スコア75 / 100
0おおむね安心100

資産が尽きずに済む割合

69%

安心ライン到達

50歳

YOHACK は、「降りられるまま払い続ける未来」と「買って固定する未来」を、自分の数字で並べて見るための道具です。何も売りません。自分の数字で見てみる

同じ問いを抱えていそうな人が、まわりにいたら。

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