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世帯のかたちと住まい

2人の年収で借りる。返済が始まると、人生はときどき1人になる

世帯年収2,000万、貯蓄と投資で3,200万、家賃は月26万。融資の世界から見れば、上限近くまで借りても通る、申し分のない世帯です。それでも片方だけが、何枚もの内見資料の裏で、ずっと同じ問いを抱えています——この返済が「2人で返す」前提で組まれているなら、片方が立ち止まった月は、誰がそれを払うのでしょうか。

これは縁起の悪い想像ではありません。2人の家計をいちばん近くで見ている側だけが持つ、構造への直感です。問題は、その直感に答える試算が一つもないことにあります。世の中の計算はすべて、2人を1つの数字に丸めた瞬間に、この問いを計算の外へ置いているからです。

借入額は「2人」で引かれる。返済額は、その2人が二度と揺らがないことに賭けている

ペアローンも収入合算も、審査が見るのは「2人がそろった一瞬」です。年収2,000万という数字は、その瞬間の2人を足したもので、借りられる上限はそこから引かれます。融資はいわば、2人がそろった日に撮った1枚の写真に対して下ります。

けれど返済が始まったあとの数十年は、ずっと2枚目以降の人生です。出産で時短になる月。介護で離職する年。転職の谷で片方の年収が薄くなる四半期。写真は動きませんが、人生は動き続けます。

片働きリスクの正体は、能力でも収入でもなく、この時間のずれにあります。借りた額は「そろった瞬間」で確定し、返す現実は「そろっていない期間」も含めて流れていきます。固定された写真に、動く人生で返済する——それがペアローンという契約の構造です。

団信が動くのは片方が亡くなったときだけ。いちばん起こるのは、居るのに稼げない期間

ペアローンは2本のローンで、団信も各自が入ります。けれどそれが残債を消すのは、原則として片方が亡くなったときだけです。出産後にペースが戻らない、半年休む、しばらく一馬力で回す——この、いちばん起こりやすい局面で、団信は1円も動きません。

ここがソロのローンと決定的に違います。死は片側ぶんが消えて残債も減ります。けれど片方が居るのに稼げないあいだは、生活費は2人ぶんかかり、返済も2人ぶん残ります。団信が備えているのは亡くなった片方のほうで、家計に実際にのしかかるのは、居るのに稼げない片方のほうです。備えと、いちばん起こることが、ずれています。

暮らしは2馬力に最適化される。だから片方が止まると、引き算ではなく崩れ方になる

2馬力の世帯は、生活そのものが静かに2馬力へ最適化されていきます。家賃26万も、日々の選択も、2人の手取りを前提に組み上がります。そこへ2人ぶんの返済が乗ります。これは収入が高い家計が脆い、という話ではありません。2人で組んだ前提が、1人では引き継げない、という話です。

片方の収入が止まった月、固定費は1円も減らず、減るのは手取りだけです。しかも残った1人は、自分の生活と相手の生活と、2人ぶんの返済を、1馬力で抱えます。これは半分になるのではありません。片方が抜けた瞬間に、残りの全部が片方に乗る。2人そろったときの余裕と、片方が欠けたときの余裕は、同じ家計の数字に見えて、まったく別の方程式でできています。

「2人で返す」は、いつのまにか「片方が降りられない」という契約に書き換わる

片働きリスクが厄介なのは、お金の問題の顔をして、その下に関係の層があることです。立ち止まった側は、返済の重さを自分の落ち度のように感じます。支える側は、辞めたくても辞められないと知ります。ローンは月々の数字でしか書かれていないのに、効いてくるのは数字でない部分です。

2人で返す前提のローンは、2人が同じペースで走り続けることを、お金だけでなく関係にも要求します。こうしてこの決断は「いくら借りられるか」から、いつのまにか別の問いへすり替わります——どちらかが一度立ち止まりたくなったとき、家計に、降りられるだけの余白が残っているでしょうか。

世帯年収という1つの欄が、いちばん知りたい変数を最初から飲み込んでいる

ローン試算も家計診断も、入力欄は「世帯年収」です。2人は1つの数字に合算され、その数字が最後まで変わらない前提で計算が走ります。だからどれほど精緻に弾いても、出てくる答えはいつも「2人がそろい続けたら」の答えでしかありません。「片方が2年休んだら」「しばらく一馬力なら」という、この世帯がいちばん知りたい場面は、最初から式に変数として立っていません。

不安が消えないのは、計算が雑だからではありません。2人を1つに丸めた瞬間に、片働き化という変数そのものが式から消えるからです。合算という便利な操作が、いちばん怖い問いを最初に飲み込んでしまっています。

スコアの綱引き

押し上げる

  • 世帯年収2,000万の厚い稼ぐ力
  • 3,200万が早くから複利
  • 世帯規模に対し軽い家賃

押し下げる

  • 厚みは2人ぶん収入が前提
  • 一本欠けると全部が片方に
  • 団信は稼げない期間に無力

なぜ86なのか——厚い土台と、一本に寄った柱の、綱引きの結果

どちらかが立ち止まるかどうかは、誰にも当てられません。だから確かめられるのは確率ではなく、片方の収入がしばらく一馬力ぶんに落ちたとき、家計が何年もちこたえ、安心ラインに届く年齢がどこまで動くか——その余白の長さのほうです。

いまの前提を100年ぶん、1,000回試算すると、この家計は余白スコア86、100歳まで資産が尽きない確率88%、安心ラインに届くのは50歳と出ます。高めに見えるのには理由があります。世帯年収2,000万という稼ぐ力が厚く、3,200万の貯蓄と投資が早くから複利に乗り、家賃26万も世帯規模のわりに重くない。これがスコアを上へ引く力です。けれどその数字を同じだけ下へ引いているものがあります。この厚みは、ほとんどが2人ぶんの収入で積み上がっているという一点です。柱が二本あるあいだは盤石に見え、一本だけになった日に、土台の広さと柱の本数が別物だったとわかります。86は、その綱引きが上で釣り合った場所です。

だからこの世帯の論点は、貯められるかでも、借りられるかでもありません。二本ある柱のうち一本が一時的に抜けても、降りられるだけの余白が手元に残るか——そこに尽きます。

あなたのスコアも、同じ綱引きで決まっています。この世帯にとっての一行は、稼ぐ力が二本そろっているあいだの数字なのか、一本になっても残る数字なのか、でした。あなたの場合、その綱引きの結び目はどこにあるでしょうか。

この世帯の余白(同じ前提で100年を1,000回試算)
余白スコア86 / 100
0余白あり100

資産が尽きずに済む割合

88%

安心ライン到達

50歳

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