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世帯のかたちと住まい

「世帯年収」は、何本の柱で立っているかを言わない

世帯年収1,500万、貯蓄と投資で2,000万、家賃は月18万。数字に派手さはありませんが、誰が見ても堅実です。妻が時短で家庭を回し、夫の収入が家計の太い柱になっています。書類の上では文句のつけようがなく、まわりからも「ちゃんとしている家庭」に見えます。それでも家のことを考えると、言葉にしにくい引っかかりが残ります。

その引っかかりは、お金が足りるかどうかではありません。堅実に見えるこの家計が、一本の柱に全体重を預けて立っている——その形を、契約書を前にして初めて自分の体で感じている、ということです。世帯年収という合計は、それが何本で立っているかを、最後まで教えてくれません。

同じ1,500万でも、片方が止まったときに残る額がまるで違う

銀行の審査票も、家計診断のシートも、まず世帯年収を一つの数字として受け取ります。1,500万は1,500万として処理され、それがどう組み上がっているかは、ふつう問われません。

けれど、同じ1,500万でも中身は別物です。750万ずつの共働きなら、片方が止まっても半分は残ります。一方が1,200万で、もう一方が時短の300万なら、太いほうが止まった時点で家計の8割が消えます。ローンの重さを決めているのは合計額ではなく、その合計が何本の柱で立っているか——審査票が記録しない、その一行のほうです。

堅実さの正体は、固定費を一本の上にだけ積み増せる身軽さだった

1馬力の家計は、平時はむしろ崩れにくいものです。生活水準が収入の身の丈に収まり、家計の意思決定が一本化されているぶん、支出も締まりやすい。堅実という評価は、誇張ではなく正確です。

住宅ローンは、その締まった一本の上に、35年ぶんの固定費を積み増す行為です。共働きが二本に分けて支える重さを、こちらは一本へ寄せていきます。やっかいなのは、その柱が太く丈夫であるほど「この一本に全部を預けてよい」と感じてしまうことです。堅実さは、寄せていることを見えにくくする方向に働きます。

妻の時短収入は、二本目の柱ではなく、落下の速度を緩めるもの

この家計には妻の時短という第二の収入があります。だから完全な一本ではない、と思える。実際それは大切な備えです。

ただ役割を取り違えてはいけません。その収入は、太い柱が止まったとき家計を背負えるほどには厚くない。多くの場合は数ヶ月から数年、落下の速度を緩めるところまでで、止まった収入そのものを置き換えはしません。第二の収入が『ある』ことと、第二の収入で『暮らせる』ことは、別の事実です。この二つを「うちは二馬力寄りだから」の一語でつないだとき、一本に寄せている構造は視界から外れます。

既存の家計診断は、柱が一本という形を、入力欄に書く場所すら持たない

ローン試算も家計診断も、世帯年収という合計を入力として受け取り、それが続く前提で先を描きます。収入が一本に集中しているという形は、そもそも入力する欄がありません。だから出力にも現れません。それらの道具が計算しているのは「合計が続けば毎月いくら返せるか」であって、「太いほうの収入が止まった月から、この家計は何年もつか」ではありません。この世帯がいちばん知りたい耐久年数のほうを、はじめから数えていないのです。

しかも堅実な家計ほど、この死角は厚くなります。平時の数字が良いせいで、一本に寄せている事実が「問題なし」の中へ収まってしまうからです。良い数字のときほど、いちばん大事な問いは見えにくくなります。

高いスコアは、一本が続くという同じ前提の上に、まとめて立っている

この家計をいまの前提のまま100年を1,000回試算すると、余白スコアは89、資産が尽きずに済む未来は93%、安心ラインに届くのは53歳でした。数字だけ見れば、たしかに心強い。堅実という直感は、ここでは正しく数字に出ています。

ただ、これらはどれも別々の安心ではありません。すべて『主たる収入が止まらず続けば』という、たった一つの前提の上に重ねて立っています。前提が崩れる確率そのものは、この数字のどこにも映っていません。心強い数字を見て安心するほど、その数字が何に寄りかかっているかは、かえって見えにくくなります。

89という数字は、軽い固定費と長い時間が、一本の細さを覆って出た値

なぜスコアが89まで届くのか。引き上げているものははっきりしています。家賃18万は1,500万の収入に対して軽く、暮らしが身の丈に収まっているぶん、毎月いくらかが確実に手元へ残ります。その残りが、複利の効く時間にまだたっぷり乗っています。生活を膨らませず、固定費を低く保ち、若さという時間を味方につける——堅実さの中身が、そのまま余白を厚くしています。93%という生存率も、53歳という到達年齢も、誇張ではなくこの暮らし方の実力です。

それでも89にとどまり100にならないのは、反対側から引き戻しているものがあるからです。貯蓄2,000万は同年代として薄くはありませんが、長い不調を吸い切る厚みまでは届きません。そして何より、その収入が一本に集まっています。89は、この綱引き——軽い固定費と長い時間が引き上げ、薄めの蓄えと一本という形が引き戻す——の、いまの均衡点にすぎません。支えている太い柱が一度たわめば、89はこの位置にとどまりません。

スコアの綱引き

押し上げる

  • 軽い固定費(家賃18万)
  • 複利の効く長い時間
  • 若さという時間

押し下げる

  • 薄めの蓄え(貯蓄2,000万)
  • 収入が一本に集中
  • 一本の柱という形

この人の論点は、足りるかどうかではなく、何本で立っているかにある

だからこの世帯の論点は、いくら貯めれば足りるかでも、いくらの家なら買えるかでもありません。家計が何本の柱で立っていて、その太い一本が止まった日から何年もちこたえられるか——そこに一点で集まっています。柱が止まるかどうかは誰にも分かりませんし、買うかどうかは本人が決めることです。決める前にできるのは、「主たる収入が続く未来」と「途中で一本が止まり、時短収入だけが残る未来」を同じ物差しで並べ、耐久年数がどれだけ違うかを自分の数字で見ておくことです。賃貸のまま身軽でいる場合と、ローンを背負った場合とで、その差はどう開くのか。

そして、これはこの家庭だけの話ではありません。あなたのスコアも、引き上げる力と引き戻す力の同じ綱引きの上に出てきます。安心している数字ほど、それが何本の柱の上に立っているのかは、見えにくくなっています。

この世帯の余白(同じ前提で100年を1,000回試算)
余白スコア89 / 100
0余白あり100

資産が尽きずに済む割合

93%

安心ライン到達

53歳

YOHACK は、「一本が続く未来」と「一本が止まった未来」を、自分の数字で並べて見るための道具です。何も売りません。自分の数字で見てみる

同じ問いを抱えていそうな人が、まわりにいたら。

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